ワイルドサイドへの執着

童子の時は語ることも童子のごとく、思ふことも童子の如く、論ずることも童子の如くなりしが、人と成りては童子のことを棄てたり

NHK 特集ドラマ『海底の君へ』について

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 220日、午後7時30分から8時43分までNHKで放送された『海底の君へ』を観た。流し見というか、ほとんど音のみを聞いていたという状態で観たが、オチに話が向かって行くにつれて引っかかるものがあったので終了10分前くらいは真剣に観た。結果、ある部分が非常に腑に落ちないものであったので今回ブログを書くに至る。

 

『海底の君へ』番組紹介(NHK公式サイトより)

卒業から15年後、中学校の同窓会。
爆弾を手に「僕と死んでください」と宣言する一人の男。
本当に彼はスイッチを押してしまうのか?
思春期に「いじめ」にあった男、前原茂雄。茂雄が同窓会爆破という過激な行動に至った動機を解き明かしていく中で、過去の「いじめ」が人生そのものを大きく狂わせていったという事実が次第に明らかになっていく。「いじめ」は真の意味では終わっていなかった。青年の傷ついた心を救えるのははたして誰なのか―
いじめ後遺症に苦しむ主人公・前原茂雄を演じるのはNHK初主演の藤原竜也
傷ついた茂雄の心を救おうと手を差し伸べるヒロイン・真帆に成海璃子
心に深い傷を負った男女が懸命に生きようともがく姿が深い感動を呼ぶ!
http://www4.nhk.or.jp/kaiteino/


 制作にあたった中村高志氏によると「いじめを考えるキャンペーン」の一環として企画されたドラマとのこと。タイトル、テーマはなかなかいいと思う。いじめにより人生の「海底」に落とされた男の物語だ。中学時代いじめられ、人生の海底に落ちた藤原竜也演じる前原茂雄。物語の中でいかに彼が苦しんでいるかが描かれていく。紆余曲折あり、彼はいじめの加害者側は当時からいじめをいじめとして認識しておらず、よりによって弁護士となり成功していることを知る。「いじめはいじめられる側に問題がある」とも言う。中学時代の同窓会を開くらしく、茂雄を誘う。茂雄は復讐を思いつく。爆弾を作り、同窓会で爆発させるのだ。ネットを通して同窓会の現場を中継をするための準備も着々と進める。動機は、自分の犠牲によって世界からいじめをなくさせるため、だ。ネット中継も世界中の人間に見てもらうため。ラストの同窓会の場面で加害者、ひいてはクラスメイト達はいじめについてなんら反省も、意識すらしていないそぶりを見せる。茂雄は爆弾を取り出す。自分がいかに苦しんだか、クラスメイトに遺言とばかりにまくしたてる。茂雄は爆弾のスイッチに手をかける。スイッチを押すのか? 押さないのか? 押さないのである。あるきっかけで親しくなった成海璃子演じる手塚真帆の訴えでためらい、結果、警察に取り押さえられる。事件は全国ニュースとなった。茂雄は身勝手な犯罪者として非難される。月日は流れ、茂雄は出所する。真帆と水崎綾女演じる小絵が出迎える。そして、物語は3人が並んで歩いていくショットで終わる。


 以上が簡単なあらすじである。流し聞きなので間違っている箇所があるかもしれないがおおよそこうだ。前述した腑に落ちなかったある部分とは「茂雄がスイッチを押さなかったこと」。自分はスイッチを押す結末が見たかった。スイッチを押さず、説得されて逮捕。これのどこが面白いのか。スイッチを押し、クラスメイトは茂雄もろとも死亡。爆発事件はニュースになるも、世間は茂雄を非難する(これは本来の物語とも変わらないが)。事件は忘れられていく。茂雄が犠牲になっても何ら変わらず起きるいじめ。そのオチの方が強烈且つメッセージ性が高いのではと思う。自分の中のルサンチマンを爆発させ、加害者を皆殺しにする。これで名作となった例が映画には無数ある。『狂い咲きサンダーロード』は山田辰夫演じる仁がバトルスーツに全身を覆い、サンダーロードに殴り込みをかけ、自分を虐げた連中を皆殺しにする。『丑三つの村』は古尾谷雅人演じる犬丸継男が、自分を虐げた村の住民を手当たり次第に殺していく(これは実際の事件を元にしている)。最近だと『進撃の巨人 前篇』は巨人に覚醒した三浦春馬演じるエレンが、自分を苦しめた巨人を皆殺しにしていく。どれも自分の中で「名作」に位置付けられている、好みの作品である。自分もどちらかと言えば虐げられる側なので、虐げられる側が反逆する作品はメッセージ性を抜きにしてもスカっとするのだ。不謹慎だと思われるかもしれないが、あくまで「フィクション」である。フィクションの中でくらい、いい気持ちになってもいいのではないか。今回の『海底の君へ』の場合、爆発しないことによってメッセージ性すらもおろそかになってしまっている。茂雄はちょっとした説得程度で心を動かされるのか、茂雄の心の傷はその程度の物だったのか、そのように見えてしまうのである。結果、いじめがどれほど重いものか、わからなくなってしまう。テレビで、しかもNHKで過激な事は出来なかったのかもしれないが、それなら中途半端にやるなよ、と思う。これでは「いじめをしてもいい」と捉えられかねないではないか。演出を担当した石塚嘉氏はこう語っている。

果たして、茂雄=藤原竜也は、愛を得た。「私のために生きて!」と叫ぶ真帆=成海璃子の声が、苦しみながら懸命に生きようとしている世界の人々に届けばいい。このドラマは、愛の物語です。


自分には、届かなかった。