ワイルドサイドへの執着

童子の時は語ることも童子のごとく、思ふことも童子の如く、論ずることも童子の如くなりしが、人と成りては童子のことを棄てたり

この無料(タダ)で読める百合漫画がすごい!2022(Presented by はてなブックマーク)

 合コンテンツも年々盛況になってきている昨今、皆様いかがお過ごしでしょうか。その実態は有料のものはもちろん、インターネットを使えば無料でも良質の百合を摂取出来る程度には充実してきています。Twitterやpixivに日々UPされる一次創作や二次創作を追っかけるだけで、月刊の「百◯姫」を買う必要などないくらいに。

ということで、自称「インターネットの情報をより深く理解でき、良質なページをより少ない時間で見つけられ」るが実際はもっぱら「揉め事ウォッチング」として重宝されるはてなブックマークにて、「百合」のタグ付けをされたページから、漫画作品を厳選して紹介したいと思います。なお、サイトの性質上、社会的なテーマを含んだ作品が評価される傾向にありますが、あくまで筆者による「あらゆるものを百合として解釈する」最低最悪の基準でやっていきます。「あの話題作がない」も同じく。中には無料公開期間が終了してしまっている作品もあると思いますが、日付は2022年1月6日付です。


クローゼットガール/朱井よしお

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【あらすじ】小学生の女の子、まほはある日、クローゼットの中からお兄ちゃんと知らない女の人がベッドで抱き合っているのを目撃してしまう。見てはいけないものを見てしまったと悶々とするまほだったが、またその女子高生、高木さんが家の前にやって来ていて――。


【備考】社会派おねロリ。最初は単なる思春期の性の悩みかと思いきや、実は兄の暴力に支配されていたことが明らかになる叙述トリックを用いた作劇も秀逸だが、外部から巧妙に隠されたネグレクトの実態を同じ痛みを抱えた者同士が“見つける”関係性に救いがある。クソ男を右ストレートでぶっ飛ばすだけに留まらず、彼なりの理由も暗示するバランス感覚が見事。まだ幼いまほちゃんと大人びたお姉ちゃんの対比に萌え。

 

遊星Xからの侵略者/S級エスキモー

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【あらすじ】田舎の集落に住む中学生の未来とユキは、都会に住む従妹から送られてくるサブカルチャーを頼りに娯楽のない日々を過ごしていた。だが、ある夏の夜に未来は愛好するSF映画さながらの“宇宙人襲来”を目撃してしまう。次の日、学校には東京からの転校生、家森がやって来るが、その姿は昨夜目撃した宇宙人とそっくりなのだった。


【備考】サブカル感情百合。タイトル通り宇宙人は襲来するが、侵略するのは未来にとってユキとの間に構築された狭い狭い“セカイ”だ。サブカルと自意識が不可分に結び付いてしまっている悲劇から、親友をNTRれた感情に翻弄される。主人公になることを諦めて、モブとして生きる決意には前向きさがある。人生はこれから。偶然覗き見た情事の生々しさが気持ち悪くて良い。山本直樹、なるほど。

 

死体と、1スーにもならない/遥川潤

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【あらすじ】昔々あるところに、ミス・ベアトリクスという女がいた。彼女は不死身であるが故に人々から魔女として迫害されてきたが、今は小間使いとして平穏な暮らしを送っていた。だがある日、不意の事故でトラバサミに腹部を噛み砕かれてしまう。その隣には雇い主の娘であるエルカンがいたが、何やら不穏なことを始めて……。


【備考】死体損壊殺伐百合。エドワード・ゴーリーマザーグースといったワードを知らなくても、イカれた愛のお話として最高。死体損壊というモラルに反しまくった行為をむしろ肯定する。「アンタはいつか私が殺す」関係性って本当に素晴らしい。ベアトリクスが死にまくっている時の朦朧とした表情にフェチを感じる。

 

あつい皮膚/もぐこん

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【あらすじ】重度のアトピーに悩まされる「私」は、掻き過ぎてボロボロになった肌のために、周囲から疎んじられていた。静かな図書室で寝て過ごす日々だったが、ある日図書委員の海老名さんに肌を触れられてしまう。それをきっかけに距離を縮めていく二人だったが……。


【備考】アトピーホラー百合。アトピーはあくまで舞台装置に過ぎず、二人の少女の身体の接触を、独特の描線で過剰に、過敏に見せているのが良い。読んでいるこっちも(いい意味で)身体が痒くなってくる。最後に地下に降りていくのも王道のホラーの感触。作者であるもぐこん先生は、他の作品でも濃厚な百合を描いており、その侘しさが醸す情感はちょっと唯一無二のものがある。これは褒め言葉だが、時代が時代ならロマンポルノとして映像化されていそうな迫力がある。

 

16歳の身体地図/モリエサトシ

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【あらすじ】16歳のキリカは、重い生理に悩んでいた。ある時、体育のバレーの授業で、同学年の中でも一際目立つ背の高い女子の球を受ける。その女子、みとは以前からキリカに憧れており、偶然落とし物を拾い届けるのだが、よりにもよってその場所は男子もいる廊下だった。


【備考】スポ根百合。生理をテーマにした作品を発表する「少年」ジャンプ+の近年の全方位的な方針には目を見張るものがある。百合的には、お互いの身体が分かっていく隠微なエロティシズムが何とも言えない。そこから「瞬間、心、重ねて」に到るジャンプ的熱さ。ここでは身長差、というより体格差萌えと言うべきか。

 

雨夜の月/くずしろ

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【あらすじ】高校入学を控える咲希は、ピアノレッスンに向かう途中である少女とぶつかる。擦り向いた手を素早く察して絆創膏を渡してくれた彼女は、何故か一言も言葉を発さなかった。そして入学当日、その少女、奏音がクラスメイトであることを知ったのだった。だが自己紹介も早々に担任があることをクラス全員に告げる。それは奏音は「耳が不自由である」ということだった。


【備考】バリバラ百合。読み切りではなく連載。百合漫画を多数発表しているくずしろ先生による聴覚の障害という難しい題材への本気具合は、冒頭の一覧された参考文献からも伝わってくる。「普通」になりたい少女達、というように耳が不自由な奏音だけではなく、咲希の秘めた想いも発覚する。続きが気になる人は単行本の1巻が出ているので買おう。この先何年後か分からないが、次に来るのは「バリバラ百合」だと勝手に期待させてくれるような作品。

 

 

ガールフレンド/岸川瑞樹

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【あらすじ】大学生のめぐみは、高校の頃に好きだった同級生のことを忘れることが出来ずにいた。そんなある日、飲み会の帰り道でその同級生、白崎薫と再会するのだが、何故か女装した姿で……。


【備考】友情百合。身体が男性であっても百合は成立する。薫が女装した身体であることを曖昧にするのではなく、しっかり描き分けていることに誠実を見る。友達であるからこそ、あえて送り出すラストの後味と、そこから意味が遅れて分かるタイトルも良い。

 

アイスクリームの夜/柚

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【あらすじ】大学生の青柳は、酒に溺れる母親に束縛される人生への思いを、SNSに吐き出していた。ある日、同級生の白木から相互フォローになりたい、と声をかけられるが、彼女は青柳と比べて裕福そうな生活を送っていて……。


【備考】光のSNS百合。世界がSNSに疑心暗鬼になっている今、必要とされるのはこういう物語ではないか。母親の毒親っぷりがディフォルメされていることに弱さを感じるが、「光の見える方に歩いて、私が暗闇の方に行くから」見開きを使った逢瀬からの抱擁の圧倒的強さに帳消しにされる。救って救われる関係性。

 

汚れた血/粟森きち

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【あらすじ】大人気アイドルの珠緒は、誰かの特別な存在になりたくてアイドルになる夢を叶えた。そんなある日、両親の死を知らされ葬儀の為久しぶりに帰省する事に。両親の死よりも妹に会うのを怖がる珠緒だが、そこには醜く黒い感情が溢れていた…!! (公式より)


【備考】闇の姉妹百合。愛と憎悪は表裏一体であることをそのまま実行したようなラストのどんでん返しが素晴らしい。これもまた一つの巨大感情。劇画的な抑制のされていなさが笑いを誘うものがあり、大袈裟なアオリはむしろプラスに働いている。「歪んだ愛の証明!!」て。

 

その日に残るかけらのために/ななせ悠

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【あらすじ】実家暮らし、フリーターのあきは、近頃恋人のゆうかから同棲を迫られることに戸惑いを感じていた。そんな折、祖母の友人の訃報を知り……。


【備考】人生について考える社会人百合。最後のページで分かる通り、祖母を主人公として描いている感があり、社会的、世間的風潮から想いを遂げられなかった同性カップルの物語という点で須藤佑実「夢の端々」に通じるものがある。関西弁の言葉の柔らかさが効果的。改めてこの題材を「少年」ジャンプ+に載せる編集部の攻めの姿勢は恐ろしい。

 

きみと観たいレースがある/原作:渡辺零・駿馬京 漫画:くわばらたもつ

 http://comip.jp/Z/cbs/c565/c52-13252/ 


【あらすじ】「家賃を折半すれば……月々四万円勝ちから競馬ができる!」という理由でルームシェアを始めた女子大生の安藤愛と鷲見武恵那。今日も二人はディープな競馬話に花を咲かせながら、競馬中継に集中するのだ。


【備考】競馬百合。某ソーシャルゲームの流行りに乗っかった安直な題材、且つ「オッサンの趣味をやる女体化」ものとして警戒させるが、原作をガチの識者が担当することにより知識の濃さでカバー、更に一昨年初作品集を出したばかりのくわばらたもつ先生による確かな筆致で嫌味なく見せる。JRA公式でいいんじゃないでしょうか。

 

波立つマーメイド/牧瀬初雲

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【あらすじ】人魚の末裔である冷泉凪は、家に縛られる血の宿命に苛まれていた。彼女は夢を持っている同級生の雛谷晴流に羨望のようなものを感じていたが、ある時、彼女が誤って崖の上から落下する姿を目撃してしまい――。


【備考】人魚伝説百合。血を分け与えることで一心同体となり、キスで目覚める接触の多さから来るエロティシズム。二人だけのアンコールで幕を引く終わりには、この先二人を待っている道ならぬ運命の悲劇も感じさせる儚さと危うさの同居がある。それは多分にスール的なものだ。


 なかなかバラエティに富んでいるんじゃないでしょうか。サイトの傾向上、半分以上を占めるジャンプ+作品は「その辺の百合アンソロより濃い」ことが最早定評になりつつあります。困難が待ち受ける社会に立ち向かうのはボーイ・ミーツ・ガールではなく、ガール・ミーツ・ガールであって欲しい。それでは、何だかんだ「百◯姫」や最近百合に熱を上げるわるい「S◯マガジン」も購入したりしながら、今年も百合を楽しんでいきませう。