ワイルドサイドへの執着

童子の時は語ることも童子のごとく、思ふことも童子の如く、論ずることも童子の如くなりしが、人と成りては童子のことを棄てたり

実写映画『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』(前篇)は俺の映画だった

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 般的に評価の低い作品が好きになった場合、どうすればいいのか。あちこちで見る酷評、酷評、酷評。それらを見るのは非常~に精神的によろしくない。「自分」と「好みの作品」はほぼイコールで同調しているので、自分が貶されている、という気分になるからである。

せめてもと思い「いや俺は好きだ」という記事で反抗してみることにする。でも公開されたのはもう1年近く前なんだよなぁ。書くのが遅い!


 遅くなったのは、公開当時はその魅力に気づけていなかったからである。実際当時書いたレビューでも「80点!」と書いている。だがソフトで見返すと「80点!」どころではなかった。点数に表せないほどの作品だったのだ。それほど好き、いや「好き」という言葉すら陳腐と思えるような……。とにかく自分の、自分自身の映画だった。自分自身の、というのは主人公の青年であるエレンが早い話、俺、自分の生き写しだったからである。外見で俺だったのではなく、内面で俺だったのだ。エレンは壁の外の世界を夢見ているが、目の前の仕事、現実には目を背けて投げ出している。気のいい親友であるアルミンも、彼女と言っていいようなミカサもいる「恵まれている」人間の癖にその事には気付いていない。つまりは「見果てぬ夢を見るボンクラ」なのである。時代と舞台は違えど、自分を見ているような錯覚を覚えた。最初はエレンと自分が状況を含め一致していたのだが、以降は乖離していくことになる。だが、エレンへの異常なほどの感情移入は続く。超大型巨人によって壁は破られ、現実を直視せざるを得なくなるエレン。二年後、壁修復作戦に志願、壁の外に出るも仲間は次々と巨人に殺されていく。追いつめられるエレン。そしてギリギリの場面で遂に現実と「目を背ける」のでも「直視」でもない「対峙」をすることになる。

ジャン「無理だ……勝ち目なんかねぇんだよ」
エレン「じゃあ、一生そうしてろ!」


 シキシマへの対抗心からとはいえ、現実と文字通り対峙したエレン。エレンにとってシキシマとは、上官であり、ミカサを奪った恋敵であり、憧れであり……。その前で逃げることは絶対に出来ない。ジャンは現実に飛び出すことのできない「もう一人の自分」である。それを見て「一生そうしてろ!」と叫ぶ。「俺はお前のような怯えてばかりの人間じゃない」と。ここのエレンを見て「ギリギリの状況にならないと飛び出せない情けない奴」と思う人もいるかもしれない。だが、自分にとってここは「飛べない自分が飛べた」、至上のシーンだった。「一生そうしてろ!」はジャンではなく、自分に向けられた言葉のように聞こえた。「飛び出した」エレンにシキシマは言う。

「捕まるのを恐れては近づけないぞ、敵の懐に飛び込め、飛べ!」


「飛べ!」、これがこの作品のテーマ、と自分は解釈している。何故この作品が途方もなく好きになったのかというと結局は「主人公が俺だった」ことと「提示しているテーマに心打たれた」からだ。「飛んだ」後も物語は続く。エレンは片足を失い、アルミンを助けようとした結果、巨人に喰われてしまう。絶望の淵でエレンは呻く。「駆逐してやる……」。巨人に覚醒するエレン。邪魔者を次々に駆逐していくが、心の穴は埋まらない。ミカサに手をかけようとするも、決別することができない。エレンは大小様々なものを失い、物語は終わる。これは「青年の挫折」の物語だった。オチだけ見ると悲惨で救いがないが、重要なのはやはり「飛び出した」ことなのだ。最後の最後、エレンが目を見開くのは「エレンの人生はまだ続く」ことの象徴、まだ希望はあるかもしれない、ということだと解釈できる。この物語に特撮が加わって画的な恐怖感、高揚感をプラスしているのだから文句の付けようがない映画、と自分の中ではならざるを得ないのだ。「青年のルサンチマンと特撮がマッチした希有な映画」という評価が適当か。「それでもここは駄目でしょ」という反論を予想して、本作の一般的な所謂「問題のシーン」についての考えも記しておきたい。


・巨人襲撃後、エレンがフラついて逃げるのはおかしい。走って逃げるべき
極度の放心状態だったので仕方がない。巨人は教会の人々に夢中だったので逃げられるはず。逃げる気力すらないエレンの情けなさの演出。


・輸送車の中で喋るのはおかしい。巨人に気付かれる
「大声は出すな」「叫ぶぐらいなら舌を噛め!」とあるので普通に喋る程度なら問題ない。


・ヒアナの単独行動、エレンとジャンの喧嘩等、指揮がとれていなさ過ぎ
原作やアニメと違い、寄せ集めの部隊なので仕方がない。


・シキシマ周りの演出がダサい。特にリンゴ
これは感性の違いなのでいかんともしがたい……


・エレンの叫びが大げさすぎ
ミカサがエレンにとってどれほど重要だったかの演出。


・特撮がショボい
自分はショボいと思わなかったのでこれについては回答不能。平行線にしかならないと思われる。


 最後に述べておくと、今の自分のオールタイムベスト1は間違いなく本作だ。浅い映画鑑賞歴だが、ここまで興奮し感情移入した作品は他にない。映画どころか今まで見てきたあらゆる創作で一番、というくらいだ。本作以上に入れ込める作品にこれから出会えるかどうか、不安である。