ワイルドサイドへの執着

童子の時は語ることも童子のごとく、思ふことも童子の如く、論ずることも童子の如くなりしが、人と成りては童子のことを棄てたり

年内にキメろ映画ベスト10 ~2020編~

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 彼構わず大変だった年だと世間的には認知されているが、恐らく煽りを受けなかった人間として上位にいると思われるので余りにも図々しい。

公開本数が減ったのは共有しているが、年の初めに観れなくなったのも個人的な不調が原因なのであって関係が無い。世間と隔絶している気分でいられるのもそろそろ限界が近いと思われる。Twitterハッシュタグから発生したベスト10だが各々の選出は明確なレギュレーションが存在しないので基準が曖昧になっている。私的な線引きとしては今回に限って「今年映画館で観た映画ぜんぶ、もしくはソフト、配信で観た新作」とした。以前は映画館で鑑賞しても所謂旧作とされる作品、公開年が今年付けではない映画(海外から遅れて配給されたものは除く)は除外してきたが、今年は特殊な例ということで範囲に入れた。内訳は邦画28本、洋画12本、旧作7本の計47本。


AKIRA
 しょっぱなから旧作。何やら予言的な符丁で取り沙汰される印象も多い映画だがそこはあんまり関係が無い。CS放送されたものを観たことはあったのだが、その時はアニメーションの作画がもの凄いだけで映画としてはそんなに…と思っていた。いくら躍動的でもやたら忙しないだけで映画としての統一感や緩急に欠ける。しかし映画館で確認すると全く印象が違っていたのである。壮大な黙示録を紡いでいく様を叙事的な視点で見せていて最終的に到達する神話的な荘厳な空気感を「体験」してしまったのだ。没入を促す映画館において真価を発揮するものを観れた点で否応なく1位。4KリマスターとのことでIMAXではない通常のスクリーンで観たのだが、その効力は冒頭の重低音から如何なく発揮されていた。

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風の谷のナウシカ
 実は初見。このような機会を与えてくれた企画には感謝しかない。圧倒的ヒロイン映画なんである。ナウシカが可愛い。ナウシカがカッコいい。ナウシカが美しい。ナウシカが怖い。といったようにどこまでもナウシカの魅力ありき。ただ清楚なだけではなく暴力を発動させる時に見せる余りにも鋭い表情を映している点も大変好ましい。彼女のみが生身で空中を飛ぶことが可能である特権性も効果的な画面を作りだしている。あとやっぱり島本須美の声が良過ぎる。殆ど犯罪的な領域だと思う。あの声をスクリーンで聴けるだけで価値がある。下半身がアニメ特有の色彩感覚で「履いてない」ように見えるのも犯罪的。傷ついたり異常な献身性を目の当たりにして変態的な欲望を堂々と請け負っている。ラストの復活劇はヒーロー(ヒロイン)なんだからあれで良い。メッセージ性とかを疎かにしているとも思うが知らね。


③生きちゃった
 前作『町田くんの世界』もそうだったが、恐らく石井裕也監督の映画が好きなんだと思う。説教臭い部分も含めて。自分が常々抱いている「気分」にとても合致していて終始何も出来ない主人公を共感の眼差しで見つめていた。世知辛いでは済まされない不幸が連鎖するなかで無二の親友と抱きしめ合い闇雲に駆けだすラストがとにかく忘れがたい。見ていられないような醜態であっても先には何かあるのか、ないのか。ブレブレのパッションでブツ切りする感覚。演じた仲野太賀の朴訥とした透明性がとても良かったと思う。染まっていない感じが魅力の人。


④初恋
 公開当時観れなかったのでソフト。三池崇史フィルモグラフィーを踏まえた自己言及的作品にしてある種総決算的な位置にある。過去に描いてきた破滅的欲望にケジメを付けて凡庸な日常に回帰していく様は『日本黒社会』と照らし合わせるとああ、先はあったんだなととても良いものを観れた気分になった。一種規範的な域を出ないジャンルの定型をなぞることによって、魔都市新宿の連中をつまらないものとして描きつつも最早過去の遺物でしかない「ヤクザ」などといったキャラクターをやはり三池らしく愛情を持って命を絶っていく手つきがやはり優しいのだ。律儀に日常を取り戻していく描写を積み重ねつつ新しい誕生を経てどこにでもある団地に収まるラストショットは間違いなく今年屈指のもの。


⑤一度も撃ってません
 セントラル・アーツファンとしてはかつての仲間たちを集めた同窓会的な内容だと揶揄されようともああ、カッコいいな、と思わずにはいられなかった。『我に撃つ用意あり』や『いつかギラギラする日』の後日談のように見えるのも嬉しく、老人達の現在をあえて肯定するのが今日的なモードなのかも知れない。丸山昇一による今日日無国籍的匂いのするハードボイルドを遠慮も無く敢行する脚本は相変わらずキレており現代の東京にガチの殺し屋ギルドがある、という設定をおくびもなく描いてしまうその手腕。オープニングの地下駐車場での刺客による暗殺、という一歩間違えればお笑いにしかならないシークエンスをこれほど適切な距離感で演出出来る監督がどれだけいるのだろう。ハードボイルドとはカッコ悪いのがカッコ良いのだ、その再確認を私的本家から行えた満足感がある。


⑥劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン
 シリーズ初見の分が悪いと思われる状態で観たがちゃんと1本の独立した恋愛映画として成立している。人が恋するといきなり天候が変わり距離さえ超越する。古典的筋ながら映画というフィクションの大嘘でのみ可能なロマンを存分に堪能出来た。中盤以降キャラクターが泣いているカットが怒涛のように連打されるのだがそのような下手と言える手法で持って逆に生み出される愚直なエクスプロイテーション的ゴリ押しの術に逆に感動してしまった。150分の尺を使ってようやっと再会した二人の様子があからさまに火照っているのが良い。直接的に描写せずとも浮かび上がってくるエロティシズム。指折りという指を絡ませ合う動作のアニメーションによって可能な官能的機能の誇張。それらはやはり絵の圧倒的繊細さでよって有効になっていると確信する。あとヴァイオレットちゃん(CV子安)が可愛い。やはり声も良い。

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⑦パラサイト 半地下の家族
 たまたま個人的不調からの映画館復帰の折に観たのでただただ漲る面白さ、映画としての創意に歓喜した。屋敷内の人物動線が現実的に考えて明らかにバレる杜撰さを隠さない姿勢にはやはり唸ってしまう。バレるかバレないかのサスペンスも紙一重を超えたドリフ的な域に達していて爆笑。当然コメディとしても一級のものになっている。個人的な賞賛ポイントとしては「人間のガッツ」が垣間見えた点にある。あと数分で連中が帰って来る瀬戸際に何が何でも誤魔化し切ってやる、下劣ながら生き延びようとする生命力の様に感動する。善だろうが悪だろうがやっぱり人間ガッツが大事。


⑧スパイの妻
 クロキヨまさかの(?)ベルリン受賞の鳴り物入りで公開されたが「普通に」面白い。ファーストショットから計算された「らしい」としか言えないシーンの数々には「映画的」という言葉が未だに正解が見えない状態でも確かにここにあると思わせてくれる。ナマモノのフィルムの意味を二転三転させ本人曰く「一番こだわった」とされる当時の映像にしか見えない質感から『CURE』を思い出される不穏に到達する気持ち良さ。東出昌大がまぁ良くて大日本帝国の狂気的軍人を期待通りのアプローチで演じている。「万死に値する」をものにしてしまうのはやはり尋常ではない。いつもの黒沢映画なら終わっていたであろうショットで終わらせずにその後を描いて見せる部分にむしろ価値を感じた。脚本が優れているのは明白。


⑨悪人伝
 韓国映画を全然観れていないので相対的評価は出来ないが、エンタメと社会派を両立させながらの熱量を観るとどうしようもなく充実していると思わざるを得ない。カツシンに似た造形を持つマ・ドンソクが殺人鬼に狙われてすったもんだというトンチキをある程度の説得力を持たせながらドライブしていく作劇の妙。ダーティな暗さ、暴力性を邦画だとそもそも拝める機会が減っているので殴ったり激突している様子を過激に見せられるのが逆に新鮮だった。観ている間に退屈しない、面白いことにただ浸った。それ以外に余り言う事も無いのが逆に美点。


⑩アンダードッグ
 肉体を信じるボクシング映画。役者が実際に鍛えて殴り合う様だけで持たせられると信じている。登場人物が食事をする、寝る、セックスをする省略可能な生活のサイクルをいちいち撮っておりボクシングだろうと生活からは逃れられないことを語る生活映画でもある。前後半による5時間近くの長尺も生活を描く上で必然。彼ら彼女らに寄り添った最後は殴り合いながらお互いを称揚する聖戦の域に達する。『あしたのジョー』的な古典的プロットによる脚本もあえて堂々とプログラムピクチャーをやる信念によって逆に強度を獲得。「今年泣けた映画」だと当然前編です。


 他には昭和を扱ういつもの瀬々節に加え『ヴァイオレット』との共通点も興味深い『糸』や戦闘美少女愛を開き直って語る恐るべき自己言及作『ANNA/アナ』、リリカルにしてハードボイルド、映画のリズムが心地よかった『のぼる小寺さん』、実はシャマランでした和製ホラー『犬鳴村』、とうとう型月の侵入を許した『Fate/stay night Heaven's Feel Ⅲ.spring song』に嫉妬で狂いそうになった『どうにかなる日々』、コロナ後の日本を撮って見せた豊田利晃の破壊映画『破壊の日』と対照的に今どきパト2かいとデストラクションに不誠実な『サイレント・トーキョー』、そんなに怒る気にもなれなかった『君は彼方』とか色々あるけど適当にやめる。とりあえず観たくても映画が観られない状況は何とかしてほしい。この辺で了。